2016年4月26日火曜日

セレナーデ第1番 op.11

ブラームスは1857年から1859年の三年間, 冬の間デトモルトの宮廷でピアノの指導および合唱団の指揮をする仕事を引き受けていた. これは定職についていない若いブラームスに作曲に専念する時間的および金銭的余裕を生み出した. この時期に作曲されたのが, このセレナーデ第1番ニ長調である. ハイドンの作品を研究した成果が発揮されているが, これは作曲技法の面だけでなく, そもそもセレナーデという18世紀以前を思い出させるようなジャンル選択にも表れている. もともとは室内楽のために作曲され, 後に管弦楽用に改定された.
モーツァルトやハイドンのような陽気で朗らかな曲想はブラームスの他の作品と一線を画し, そのためか演奏機会に乏しい.

2016年4月23日土曜日

ヒラーの歌劇「脱走兵」より序曲

フェルディナント・ヒラーはケルン音楽院の学院長を務めた作曲家で, メンデルスゾーンやアルカンの友人でもある. 19世紀のドイツ語圏では非常に高名であったが, その作品は現在ではほぼ忘れられていると言ってよい. ピアノ協奏曲といくつかのピアノ小品がごく稀に演奏される程度である. ヒラーは意図的に貴族階級の支持を集めたが, ブラームスは親しい友人との会話の中でそのような彼のスタンスについて批判している.

2016年4月20日水曜日

ジプシーの歌による変奏曲 op.21-2

創作主題による変奏曲op.21-1と同時に出版された. この曲の特徴は, 変奏主題が3/4拍子と4/4拍子の混合拍子によるもので, 拍的に不安定であるという点にある. このような変則的なリズムへの傾倒はブラームスの作品を特徴づけるポイントのひとつで, ハイドンの主題による変奏曲op.56では5小節単位による主題を採用しているし, 他の曲でも変則的な進行はしばしばみられる.
主題と13の変奏, そして長めの終曲からなるが, 演奏時間8分を超えない短い曲である. 一見朗らかで馴染み易い主題で始まるが, リズム構造が独特で, それをつかみ損ねると流れに乗れず気づくと終わっているという, 聴く側にもハードルがあるという変わった曲と言えるかもしれない.

2016年4月17日日曜日

4つの歌曲 op.43

ブラームスの歌曲集として特によく知られたもので, 第1曲と第2曲がしばしば演奏される.

第1曲 永遠の愛について Von ewiger Liebe
短いモノローグに続いて, 弱気な男性に対して, その恋人である女性が固く愛を誓う. ドイツ歌曲らしい表現力と比較的大規模な構成のために極めて人気のある作品である.

第2曲 五月の夜 Die Mainacht
ナイチンゲールの声を聞き, もう会えない想い人に心を寄せる. その静謐な音楽が聴きどころ.

2016年4月14日木曜日

クラリネット五重奏曲 op.115

クラリネットを含む室内楽作品としてモーツァルトの五重奏曲と並ぶ知名度を誇る本作は, クラリネット三重奏曲op.114と平行して作曲された. ブラームスや彼の友人たち, クララ・シューマンらははじめこの五重奏よりむしろ三重奏曲の方を評価していたようだが, マイニンゲンでの非公開初演, ベルリンでの公開初演, そしてウィーンでの演奏はいずれも絶賛された.

第1楽章 ロ短調, 6/8拍子, ソナタ形式.

2016年4月11日月曜日

ピアノ四重奏曲第2番 op.26

ブラームスは自身のピアノ四重奏曲第1番, 第2番をop.25, op.26と連続して出版した. 現在では第1番はシェーンベルクによる管弦楽版のおかげもあり知名度を持つが, イ長調の第2番はその影に隠れたマイナーな作品となっている. もちろん, 第2番も優れた内容を持つということは指摘するまでもない. 第2番の特徴は, 伝統的な形式感への挑戦が随所に見られる点である. この努力は後の傑作群に実を結ぶことになるが, この時点では, 代償として同じ主題が執拗に耳につくという欠陥により, 完全に成功しているとは言い難い.

第1楽章 Allegro non troppo
イ長調, 3/4拍子, ソナタ形式. 暖かな陽だまりのような音楽. どの楽章も10分を超える大規模な作品であるが, その中でも特に規模が大きく, ベートーヴェンやシューベルトの影響が感じられる.

2016年4月9日土曜日

お知らせ

新年度に入り生活環境が大きく変化し, かなり忙しくなったため, 更新頻度を3日に1回に変更します. 次の更新は11日(月)になります.

2016年4月8日金曜日

4つの歌 op.17

女声合唱, 2本のホルン,ハープという珍しい編成のための作品である.ブラームスは若いときデトモルトで女声合唱団の指導をしており, そのメンバーの中にホルンやハープが演奏できる人がいたのだろうか.

第1曲 ハープの音が満ち Es tönt ein voller Harfenklang 印象的なホルンの和音にハープの響きが絶妙に重なる.

2016年4月6日水曜日

二重協奏曲 op.102

ヴァイオリンとチェロという二人の独奏者を要する協奏曲で, ブラームスの管弦楽作品としては最後のもの. 通称「ドッペル」. 英語ではDouble Concerto, ドイツ語ではDoppelkonzert.
この曲が発表されたのは1887年, 交響曲第4番を仕上げた翌年である. 初演にはブラームスの親しい友人であるヨーゼフ・ヨアヒムとロベルト・ハウスマンが起用された. 9月21日にピアノ伴奏で私的初演された後, 9月23日にバーデンのオーケストラで演奏された. 公開初演はケルンで10/18である. 本作はただちに各地で演奏され, ロンドンでも1888年2月16日にヨアヒムとハウスマンのソロ, やはりブラームスの友人ジョージ・ヘンシェルの指揮で演奏され, 成功を収めた. しかし, ウィーン初演はそれよりずっと遅い1888年12月23日である.
この作品に対する聴衆の反応は概して好意的ではあったが, ブラームスの周囲の人々や批評家の間では批判的な見解も見られた. 例えばクララ・シューマンはこの曲について「他の作品によく見られる新鮮で温和な筆致がこの曲にはありません」と手紙で述べている. これらの指摘はある意味でこの曲の本質を捉えており, バロック風に角ばったこの曲においてブラームスが自身の交響曲で展開したようなロマンティックさを見出すことは難しい. しかしこの古めかしい様式を意図的に再現するという手法は, 交響曲第4番で見せた方向性に沿ったものであり, ブラームスの新しい表現方法として注目すべきである. この様式が周囲の友人に受けが悪いと悟ったブラームスはこの路線を推し進めることを止め, 小規模な作品に目を向けることになる.

2016年4月4日月曜日

新・愛の歌 op.65

4重唱と連弾ピアノのためのワルツ集で, ワルツop.39, 18の愛の歌とワルツop.52に続く3番目の家庭用作品集である. 前2作 (出版はそれぞれ1866年, 1869年) やハンガリー舞曲集 (1869年) の商業的成功が念頭にあったことは間違いない.
ブラームスの民謡への愛着がよく表れた曲集である. 15曲からなり, 一定のストーリーに基づいて展開される. 作品52に比べて, 独唱曲が多く含まれるのが特徴的.

2016年4月2日土曜日

ピアノソナタ第2番 op.2

本作は作曲時期的にはピアノソナタ第1番op.1に先行するものであるが, 自身の作品カタログの冒頭を飾る楽曲は正統派のハ長調ソナタであるべきというブラームスの判断によって , この嬰ヘ短調のソナタには作品番号2が付与された. 本作はクララ・シューマンに献呈されている.

第1楽章
嬰へ短調, 3/4拍子, ソナタ形式.
劇的な序奏に続いて幻想的な音楽が展開される. 本作の作曲時期にはブラームスはまだハンブルクを出たことがなくショパンやシューマンの作品を知らなかったと思われるが, 彼ら初期ロマン派と同じ雰囲気を持つことが興味深い.