2016年1月30日土曜日

弦楽四重奏曲第1番 op.51-1

交響曲の場合と同じく, ブラームスにとって弦楽四重奏曲というジャンルはベートーヴェンを意識せずにいられないものであった. ベートーヴェンが作品を残していない弦楽六重奏のためには, 比較的早い時期にop.18とop.36という2つの傑作を残しているが, 弦楽四重奏曲を発表するのはop.51, 彼が40歳のときとかなり遅くなってからである (それでも交響曲よりは早いが). 伝えられるところによると, 現在第1番として知られているこの作品の前に, およそ20の四重奏が作曲され, 廃棄されている. その厳しい自己批判を通り抜けただけあって, この第1番と, 同時に発表された第2番は, 高い完成度と充実した内容を誇っている. ブラームスの弦楽四重奏曲はあと1曲, 第3番op.67で完結する.


第1楽章
ハ短調, 3/2拍子, ソナタ形式
序をおかず低弦の刻みにのったヴァイオリンの第1主題で開始され, 4人の奏者の息をつかせぬ絡み合いが展開される. 他に, 調の不安定さも特徴をなしており, 例えば第2主題部 (49-61小節) はニ長調で開始し変ホ長調に終わる. コーダでハ長調となりやっと明るさを手に入れるが, それも一瞬で静まり, 全音符で主和音を奏でて終わる. 実質的にこれが全曲で唯一の輝きであり, その儚さが胸を打つ.

第2楽章
変イ長調, 3/4拍子, 二部形式. ロマンスと題されている通り, この固く重苦しい作品にあって一筋の光として機能しているが, それでも隠し切れない悲しみが全体を覆っている. 途中で現れるスタッカートつきの八分音符による部分の, 切れ切れと前に進むので精いっぱいといった風情はブラームスの青年期の苦労の表れだろうか.

第3楽章
ヘ短調, 4/8拍子, スケルツォ.
捉え所のない音楽が続く. これは, 単純に音階で下がっていくというメロディとも言えないようなメロディ, 弱拍に置かれたアクセント, ハ短調など他調に傾斜し主和音が回避される, といった諸要素によって醸し出された意図的なものであろう. そもそも, 3拍子であるべきスケルツォを2拍子で書くという時点で, 独特な一種の浮遊感が生じているのである. トリオは打って変わってヘ長調のわかりやすいもの. しかしそれでもどこか不安げである.

第4楽章
ハ短調, 2/2拍子, ソナタ形式.
鋭い調子の弦楽器の叫びから始まる. 第1主題は2つの句からなっており, 3度の進行が目立つ3小節目からのフレーズと, オルガンのようなチェロの最低音の響きに載せられた2ndVnとVaの33小節目からのメロディである. その後ひたすら冒頭音型に基づいて展開され, 70小節目でやはり同じ音型による第2主題が提示される. その意味で第2主題の重要性は低く, この手法は交響曲第1番第1楽章を想起させる. 第1主題第1句に基づく展開部は, 対位法や転調を駆使する複雑なもの. 第2句から再現し, 休止を挟んで192小節目からの破滅的なコーダに入り, 最後まで苦渋に満ちた音楽を総括する.

0 件のコメント:

コメントを投稿