2016年1月1日金曜日

ドイツ・レクイエム op.45

ラテン語の祈祷文に基づくモーツァルトやヴェルディのレクイエムとは異なり、
本作品の歌詞はドイツ語訳聖書の文言をブラームスが自由に取り出し、配列し直したものとなっている。
それ故に、実際の式典用として用いられない、純「演奏会用」のレクイエムと言える。
このジャンルには他にウォルトンの戦争レクイエムなどがある。

全体で7曲70分という大曲で、ブラームス全作品中最も規模の大きな楽曲である。
この曲の構想および作曲にはロベルト・シューマンおよびブラームスの母親クリスティーネの死が影響している。
その結果、人の悲しみ、慰め、敬虔な祈りといった感情が音楽に露骨に刻印されている。
ブラームスが交響曲を中心とする器楽作品では標題音楽と距離を取っていることを思うと、
このレクイエムはブラームスらしくないと評価されるかもしれない。
しかしながら、声楽作品ではそのような個人的動機に基づく作品も散見され、
彼の音楽の器楽とは異なった切り口を提示していると見るのが妥当であろう。
作曲技法の面では、古めかしい対位法を駆使するなど、古い音楽の研究の集大成となっており、
ドイツ・レクイエム (そして交響曲第1番) によってブラームスは彼個人の様式を完全に確立することになる。

この作品のブレーメンでの初演の成功 (ブラームス35歳のとき)によって、
ブラームスはドイツを代表する作曲家という名声を獲得した。

第1曲
ヘ長調、4/4拍子。
低音で響くF音に乗せられて、チェロとヴィオラが控えめに主題を提示し、この壮大な作品の幕を開ける。
弦楽の対位法的な展開を経て、合唱が静かに'Selig sind' 「幸いなるかな」とこの作品全体を貫くモチーフを歌い始める。
第1曲は全体を通して教会で静かに祈りを捧げるような雰囲気で満たされている。
なお、第1曲においてはヴァイオリンが用いられていない。

第2曲
変ロ短調、3/4拍子。
第1曲とは異なり、第2曲は2部構成でそれ自体ひとつのストーリーを持っている。
冒頭、オーケストラによって鬱々とした響きが奏でられると、合唱がそれに応じてこの世の無情さを歌う。
第1部の中間部では長調に移り、忍耐と大地の恵みが柔らかな口調で説かれるが、再び冒頭の沈鬱な音楽が戻ってくる。
唐突にフォルテで主による救いが宣言されるのが第2部の開始の合図となる。
男声合唱で力強く歌われる主題が次いで女声に移り、対位法的にフーガのような盛り上がりを見せる。

第3曲
ニ短調、2/2拍子。
前半ではバス独唱を中心として生きることの苦悩が語られ、後半で神のもとでの救いが歌われる。
全体の構成は第2曲に類似している。

第4曲
変ホ長調、3/4拍子。
前2曲とはまた雰囲気が変わり、安らかな音楽となる。
比較的短い曲であるが、ブラームスの得意とする変奏技法がふんだんに用いられている。

第5曲
ト長調、4/4拍子。
ソプラノそろ3を中心とする、やはり短い曲。
全体として穏やかな音楽が続くが、その中で悲しみと慰めが歌われる。
途中でチェロのソロが登場するなど、これまでの重みのあるオーケストレーションではなく軽く室内楽的な響きによる。
その結果として透き通った天国のような美しさが具現化している。

第6曲
ハ短調、4/4→3/4→4/2。
全曲中最大の盛り上がりを見せる山場がこの第6曲である。
はじめ合唱が重々しく長調とも短調とも決まらないメロディを歌う。
バス独唱がそれを引き継ぐと、徐々に暗さを増しつつ音楽を展開させていく。
その頂点で金管楽器の鋭い響きとともに、死との葛藤を表す激しい音楽へ雪崩れ込む。
最後にはハ長調に辿り着き、主の栄光を明朗なフーガで称える。w

第7曲
ヘ長調、4/4拍子。
第1曲と同じヘ長調で、今度は解放と祝福が歌われる。
音楽の素材も第1曲に基づいており、全曲を主題の上で統一している。

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